介護業界は、サービスの性質上、他の業界よりも事故やトラブルが起こりやすくなっています。実際に、これまでヒヤッとするような場面に遭遇したことがある方もいるでしょう。
もし事故やトラブルが起きてしまった場合、大きな責任追及をされることになり、場合によっては事業の継続が困難になってしまうかもしれません。そのため、介護現場では入念にリスクマネジメントをおこなう必要があります。
しかし実際、どのようにリスクマネジメントをおこなえばよいかよくわかりませんよね。そこでこの記事では、介護現場のリスクマネジメントのプロセスなどについて解説します。特に、介護現場のマネジャーの方はぜひご覧ください。
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リスクマネジメントとは
リスクマネジメントとは、未然に事故を防止することや、発生した事故を迅速に処理して被害を最小限に抑えることを指します。介護現場の場合、事故の発生がそのまま人命に関わるため、リスクマネジメントは必須となっています。
介護現場のリスクマネジメントの具体的な内容は、以下のものがあります。
- 介護中に起こりうる事故や発生状況を予測する
- 事故が起こらないように予防策を講じる
- 事故が起きてしまった際の適切な準備方法を用意する
特に介護業界の場合、サービス利用者に高齢者が多いため、事故が深刻化しやすくなっています。
明日事故が起こる可能性もあるため、リスクマネジメントができていない場合は、早急な対応が必要です。
介護現場におけるリスクマネジメントの重要性
先述のとおり、介護現場の場合は事故によって人命が脅かされることもあるため、リスクマネジメントは非常に重要です。
それだけでなく、利用者に与えた損害によっては、莫大な損害賠償責任を負わされるかもしれません。
特に介護現場を利用する高齢者は、以下の理由により事故を起こしやすかったり、事故によるケガが深刻化したりする恐れがあります。
- 視力の低下
- 骨の脆弱化
- 筋力の低下
- 疲労の感じやすさ
- 動体視力の低下
では、介護現場における事故の事例と、実際に事故が起きた際の損害賠償について見ていきましょう。
介護現場における事故の事例
介護付き有料老人ホームに入居していた女性が、不適切なトイレ介助で転倒した事故による摂食障害で飲食できなくなり死亡したのは、施設側が入居者の安全に注意する義務を怠ったのが原因として、遺族が施設運営会社に損害賠償を求めた訴訟の判決が23日、大津地裁であった。西岡繁靖裁判長は請求通り約2,520万円の支払いを命じた。
(引用:京都新聞)
実際にどのくらいの損害賠償が発生したか
利用者が転倒して大腿骨を骨折し、後遺障害等級12級の後遺症が残ったケースでは、事業者に830万円の損害賠償が命じられました。
また利用者が誤嚥により窒息死したケースでは、2,640万円の損害賠償が認められています。
このように、介護現場の事故による損害賠償額は、莫大なものになることがあります。
介護現場におけるリスクマネジメントの目的
介護現場のリスクマネジメントの目的は、次の2つです。
- 事故防止によって利用者とスタッフを守る
- 安全義務違反による責任追及を防ぐ
では、それぞれについて解説します。
1.事故防止によって利用者とスタッフを守る
事故から利用者を守ることは当然ですが、同様にスタッフを守ることも大切です。
もし事故を防いだり、事故が発生した際の対応方法が整備されていたりしないと、スタッフは常に不安を抱えながら仕事をすることになります。
そうなっては、かえってスタッフのミスが増えるかもしれませんし、よい人材でもなかなか定着してくれません。
リスクマネジメントをしっかりおこなっておくことで、有事の際もスタッフが正しい処置を取れますし、利用者の被害も最小化できます。
また、スタッフが責任追及される可能性も低くなります。
利用者とスタッフ双方を守るためにも、リスクマネジメントは必ず実施しましょう。
2.安全義務違反による責任追及を防ぐ
先述のとおり、介護現場の事故によって、莫大な損害賠償額を負担することになる可能性があります。
そして、場合によっては倒産することになるかもしれません。
しかし損害賠償が認められるのは、あくまで事業者側に過失が認められる場合です。
安全義務違反による責任追及から事業を守るためにも、リスクマネジメントは必須です。
介護現場におけるリスクマネジメントのプロセス
介護現場のリスクマネジメントのプロセスは、次の4ステップです。
- リスクの特定(発見・把握)
- リスクアセスメント(分析・評価)
- リスク対応(対応策)
- リスクコントロール(運用)
では、それぞれについて解説します。
1.リスクの特定(発見・把握)
リスクの特定には、「ヒヤリハット報告書」を活用しましょう。
ヒヤリハット報告書とは、利用者が浴室で転倒しそうになったなど、事故にはいたらなかったものの危うく事故に発展しそうになったことを報告するためのものです。
ヒヤリハット報告書を活用するのが有効とされるのは、「ハインリッヒの法則」に根拠があります。
ハインリッヒの法則とは、1件の大きな事故の裏には29件の軽微な事故と、300件のヒヤリハットがあるという考え方のことです。
そのため、ヒヤリハット報告書を活用することで、大きな事故を未然に防げるのです。
2.リスクアセスメント(分析・評価)
続いて、ステップ1で集めたヒヤリハット事例の分析・評価をおこないます。
分析・評価は「人的要因」「設備的要因」「環境的要因」「管理的要因」に分けて実施します。
具体例は、次のとおりです。
事例:利用者が浴室内で滑って転倒しそうになった
人的要因:スタッフが目を離していた
設備的要因:床のぬめりが取れていなかった
環境的要因:同時に複数の利用者がいた
管理的要因:介助に慣れているスタッフを配置していなかった
こうしてそれぞれの要因を特定することで、より具体的な対策方法が浮かび上がります。
3.リスク対応(対応策)
どれだけ事故を未然に防ごうとしても、100%事故をなくすことは困難です。
そのため、事故が発生してしまった際の対応策も練る必要があります。
事故の被害の大きさは、初期対応の良し悪しによって変わってきます。
被害を最小限に抑えるためにも、想定される事故ごとに対応手順をマニュアルとしてまとめておいたり、定期的なスタッフの訓練をおこなったりしましょう。
4.リスクコントロール(運用)
リスクコントロールとは、リスク対応策を実際に運用できるようにシステム化することです。
たとえば対策マニュアルの整備やスタッフの教育、利用者の家族との関係構築などをおこないます。
リスクコントロールの実践には、安全管理委員会の設置が有効です。
安全管理委員会の実施内容は、次のとおりです。
- 事故の対策方法の検討や決定
- リスク対応の定期的な評価
- 利用者の家族への報告
- 定期的なヒヤリハット報告会
これらをもとにマニュアルを見直したり、スタッフに対する教育を手厚くしたりすることによって、リスクコントロールはより確実なものになります。
介護現場で事故が発生した際にやるべきこと
万が一介護現場で事故が発生して閉まった場合は、次の4つのことをおこないましょう。
- 負傷者への応急処置
- 関係機関への連絡
- 利用者の家族への報告
- 事故の記録・原因調査
1.負傷者への応急処置
最優先におこなうべきなのが、負傷者への応急処置です。
事故の状況に応じて、止血や人工呼吸など、適切な処置が求められます。
そして早い段階で看護師や医師の応援を依頼しましょう。
2.関係機関への連絡
介護現場で事故が発生した場合、関係機関への連絡が必要になることがあります。
たとえば死亡事故の場合は警察、食中毒が起きた場合は保健所への連絡が必要です。
3.利用者の家族への報告
事故の状況がいったん落ち着いたら、利用者の家族への報告と謝罪をおこないます。
事故の状況や利用者の状態は、正確に伝えましょう。
虚偽の報告をおこなった場合は、法律で罰せられることがあります。
4.事故の記録・原因調査
一度起きてしまった事故を二度と発生させないよう、事故の記録と原因調査をおこないます。
再発防止策を検討する際は、関係機関の指導を受けるとよいでしょう。
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まとめ
リスクマネジメントは、サービスの利用者だけではなく、スタッフや事業そのものを守るためにも必須です。
特に介護現場では深刻な事故が起こりやすいため、リスクマネジメントは入念におこないましょう。
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